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ブロードキャスト・サウンドプロセッサについて
(「初めてご利用の方へ」より転記)

注・この記事は2010年7月に作成し2015年6月に訂補したものです。

本記事は、主にブロードキャスト・サウンドプロセッサの目的と解説を記していますが、第3世代プロセッサ固有の記事については「新性能第3世代「ブロードキャスト・サウンドプロセッサ(BSP G3)」について」を参照してください。(2022年3月)


現在公開している全走行音番組は、標準モードはAM放送〜FM放送の中間程度、ECOモードはAM放送程度の音質と質感,明瞭度を目標とし、「ブロードキャスト・サウンドプロセッサ」による処理を施しています。

単純に低ビットレート設定でエンコードすればいいように思われる作業ですが、そのまま作業しただけでは最適な結果にはなっていません。ダイナミックレンジ(音の強弱の性能範囲)が実質的に狭い低ビットレートデータのために、大きな音に合わせれば小さな音は聴こえ難くくなり、小さな音に合わせれば大きな音は歪んだりクリップしてしまいます。
同業他者サイト様の公開録音では、特にデジタル録音したままのダイナミックレンジの高い状態でのピークに合わせて調整している所が多いため、特に低ビットレートデータの時に、停車・発車時の様子が聞き取りにくい(音量が非常に小さい)ことがあったり、突然の大音量に注意を促すものが多いのは、そうした理由によるものです。
また、大多数の各種エンコーダーは入力範囲を極力広く採っているため、周波数帯域調整していないデータをそのまま入力すると、副作用が目立つ結果になりがちです。

ダイナミックレンジの狭い低ビットレート用のデータを作るためには、その限られたダイナミックレンジを有効に使うための事前の処理が欠かせません。また、設計の古いRealAudioの低ビットレートコーデックは、最新のMP3エンコーダーよりも品質が劣りますので、それを補う為には事前処理の導入が欠かせないのです。

今や子供でもできる、スペック上「高音質」なデータをそのまま高ビットレートデータへエンコードし公開するのに比べると、実は最適な公開用低ビットレートデータを作るほうが大変難しく手間がかかります。ブロードキャスト・サウンドプロセッサを単に導入しても、セッティング(調整)作業でその"解"(サウンドの味付け)を得るまでには何度も試行錯誤を重ねる難しい作業が必要です。
当ウェブサイトでは2007年からテストを重ね(※1)、2008年公開(新規・差し替え共)の走行音録音番組より、ブロードキャスト・サウンドプロセッサによる事前処理を全面的に採用しております。また、2009年と2010年にも、それぞれ異る処理系を導入し使い分け、録音番組の状態に応じた使い分けをし最適な状態で送信できるよう努めております。

※1
自前の走行音・生録音源ばかりでなく、手元にある音楽CD、さらには市販の自然音CD、ラジオ局や音系同人、個人のポッドキャストなど、あらゆるものを処理して試しています。
処理した音のうち、音楽をお聴きかせする機会はライセンスの都合上ありませんでしたが、エラー画面用に、クリエイティブ・コモンズライセンスで公開された坂本龍一氏の音楽を使用していますので、試聴されたい方はこちらからお聴きください。


放送用として通りの良い音質に加工し音量も自動調整処理しているため、小音量でも聴きやすく、また聴取の際に番組内でボリュームを頻繁に操作することなくお聴き頂けますが、このような処理を施していますので、元データやCD頒布品とは聴こえ方が異ります。これは実際のAM放送やFM放送(TV放送もですが)でも同様です。
例えば、同じ曲をCDとFM放送やAM放送,TV放送とでそれぞれ聴き比べると、FM放送はゴージャスに聴こえ、AM放送では騒音の中でも聴き取りやすく、TV放送は狭い部屋でも広い部屋でも同じように聴こえるのは、こうした事前の処理によるものです(※2)。

※2
実際のFM放送等ではステレオの広がり感についても拡張処理(エンハンサ処理)が施されていますが、私共のネットラジオでは音楽音源以外のものを取り扱う性質上、処理時の副作用抑制のためステレオの広がり感については低域を第一プロセッサ(2008年導入)では70%程度、第二プロセッサ(2009年導入)では50%程度抑制し、中域・広域はそのままにしています。第三プロセッサ(2010年導入)では低域を30〜50%程度抑制した後、全体を5%程度拡張しています。
なお「ECOモード」等の20kbps未満のものについては、副作用低減のため意図的に全体の広がりを狭くする処理をしています。


実際の放送局では、AM放送(短波放送含む)は1970年代後半より、FM放送では1980年代後半より各局でこのような処理の導入がされていますが、その専用機材は高級乗用車1台分の金額と同等の、大変高価なものです。
パソコン・ワークステーションで相当した処理をソフトウエアで行なうには、私共がこの鉄道生録サウンド(音鉄)ウェブサイトを開設した1990年代は処理能力の限界で無理がありましたが、今ではパソコン・ワークステーションの能力が飛躍的に向上し、ソフトウエアでの処理が可能となりました。
その効果は非処理のデータに比べユーザー体験品質を維持あるいは改善しながらも、より低いビットレートでの送信が可能になるものです。
これによりサーバーストレージやネットワーク負荷を低減、あるいは同時接続数の増加を図ることが可能になり、結果的に環境負荷をも低減できる効果も得られています。

CDクオリティなみの高音質なハイビットレート送信も技術的に可能ですが、実際にはネットワークの帯域の問題や、全ての方が高速度で安定したインターネット環境を享受されている訳ではないことを前提として考えています。
特に海外では安定していない場合もあることや受信量制限を設けているプロバイダもあることから、64kbps以下での送信を目標とし、多くの方に気軽にご利用いただけるようにデザインしております。
さらに、スペック上の高音質を目標にCDなみの音質のハイビットレート送信としても、それを十分に発揮することのできる聴取環境をお持ちの方は、実際には限られることが殆どです。

以上から、いたずらに高音質にすることなく、ラジオのように気軽にお聴きいただきたいと考え、ダイナミックレンジが近似し、且つ調整の難しい「AMラジオ放送局」の音質を追求し研究してまいりました。
この成果によって、回線速度が64k以下でも十分お楽しみいただける送信品質と音質を実現しております。

「ブロードキャスト・サウンドプ ロセッサ」による処理を施した録音番組は、ダイナミックレンジ調整により同業他者様のウェブサイトのと比べて、実効音量が高くなっております。同業他者様のウェブサイトをお聴きになってから当サイトの録音番組をお聴きになられる場合は、音量に気を付けてお聴きください。

また、研究中に得られた成果をマスタリングにもフィードバックし、特にアナログテープ音源の改善に効果を発揮しており、既存の録音アーカイブの活用や、他の方が録音された貴重な音源の発掘・公開にも役立てていきたいと考えております。

2015.6.13 訂補


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