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十和田観光電鉄
十和田観光電鉄の走行音録音です。

十和田観光電鉄モハ3603
十和田観光電鉄モハ3603.

元東急デハ3655で,十和田観光電鉄譲渡の際,両運転台に改造されている.

撮影:MT 1992年2月
三沢-大曲
(フィルム撮影・画像調整済)


十和田観光電鉄三沢駅
十和田観光電鉄 三沢駅.
JR(現・青い森鉄道)三沢駅の脇にある.

撮影:TH 1999年6月6日
(フィルム撮影/画像修正・調整済)

青森県三八上北地方 最後の私鉄

 十和田観光電鉄(十鉄/とうてつ)は1922年9月4日に軽便鉄道「十和田鉄道」として、古間木(現・三沢)〜三本木(現・十和田市)が開業。当初は蒸気機関車による運転でしたが、1930年にフリークエンシー確保からガソリンカーも導入しています。
 戦後、ガソリン不足から1951年6月に1067mm軌間へ改軌と電化を実施。1955年と1962年には東北一と呼ばれた自社発注の電車を導入し、観光事業も拡大したものの、1968年の十勝沖地震で被災。復旧資金調達のため国際興業グループ入りし、国際興業の青森県進出への足掛かりにもなっていました。

 1970年度には年間輸送人員165万人となり、ラッシュ時には4両編成で対応するなどしていましたが、以降はモータリゼーションの拡大と安定収入源であった貨物列車の廃止、沿線の人口減等により、経営的に苦しい状況が続き、2010年度には46万人にまで減少しています。

 政府からの支援が1998年に打ち切られたものの、2002年度以降は沿線自治体からの支援を受け、設備更新や新車両の導入をしましたが、2008年には経営悪化により、新設会社に事業譲渡しています。
 このように経営再建を図るものの状況は芳しくなく、東北新幹線新青森全通に伴い接続していた東北本線が第三セクター鉄道となり特急列車も廃止され、新幹線駅からも離れたことで、利用客は激減してしまいました。

 2011年3月11日の東日本大震災では大きな被害もなく、3月13日には運転を再開しているものの、赤字を補っていた観光・バス部門の利用客が激減。沿線市町に更なる支援を求めたものの拒否される事態となり、2012年3月限りで鉄道事業を廃止することを発表。2012年1月24日に国土交通省東北運輸局へ事業休止届と廃止届を提出。2012年3月31日をもって営業を終了、2012年4月1日をもって廃止となりました。

 青森県内では1997年の南部縦貫鉄道休止(後に2002年正式廃止)、2001年の下北交通大畑線廃止に次いでのもので、三八上北地方(青森県の下北半島と旧南部藩地域からなる県南地方)では最後の純私鉄でした。

[参考]2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)
沿線市町の震度(本震)

十和田市 5強
六戸町 5強
三沢市 4





モハ3603 十和田市駅
十和田市駅に停車中のモハ3603.

十和田市駅は,以前は画面奥300m程先にあったが,画面左側に自社によりショッピングセンター(SC)を建て大手スーパーを誘致(フランチャイズ経営),その建物内に改札口を設け移転した.

跨線橋は左手に川(稲生川)があるため,建物とを結ぶためのもの.
この川は人工河川で,1859年に南部藩が十和田湖の水を引くために設けられた.

自社SCは後に誘致した大手スーパーが経営破綻し閉店.
さらに経営再建のため建物を売却したが,それにより新所有者より退去を求められる事態となり,対応を迫られていた事も路線廃止の要因にもなった.

駅移転後も最近まで線路があり,引き込み線となっていたが,旧駅舎共々敷地が売却され,店舗建設に伴い解体されている.

撮影:TH 1999年6月6日
(フィルム撮影・画像調整済)

モハ3603 車内
モハ3603の車内.
ワンマン用機器設置や扉の取手追加以外は,ほぼ東急時代のままである.

撮影:TH 1999年6月6日
(フィルム撮影・画像調整済)

十和田観光電鉄 モハ3600形 モハ3603号
三沢-十和田市(往復) 1999年6月6日録音 約56分

録音・編集・プロデュース/TH 1999年編集作品 2010年簡易リマスタリング版
©TH


 収録当時の1999年時点では、十鉄では全ての電動車が釣掛駆動車であり、定期的に且つ確実に釣掛電車に乗れる東北唯一の路線で、自社発注車の他、元東急の旧3000系列の釣掛車があり、収録した日は元東急車のみで運転されていました。

 モハ3600形は元東急デハ3650形を譲り受けたもので、1942年(昭和17年)に製造され、当初はモーターの無い制御車(クハ3650形)でしたが、大戦後の1952年(昭和27年)に電動車化。その際、工場にあった予備品を活用しており、東急釣掛車標準ともいえる日立HS-267系主電動機を装備。更新工事も受け、デハ3450形等と共に長く使われました。

 日立HS-267系主電動機は、1933年にモハ510形(後のデハ3450形)で採用されて以来、東急では最も多く使われた釣掛式主電動機で、その特性が東急のような駅間距離が短い短距離な線区に合っていたためか、他の主電動機搭載車(TDK-528系,HS-269-CR)のほうが後年の製造ながらも先に廃車になり、結果的に東急鉄道線最後の釣掛式主電動機でもありました。

 十鉄への譲渡に際しては、主電動機出力が他車よりも低いため歯車比を変更し両運転台化され、十和田市側は切妻ですが全室仕様の運転台が設置されています。

 台車は東急釣掛電動車に多かったイコライザー式のもので、独特の硬い揺れは健在で比較的整備されている区間の多い同鉄道においても、上下左右に揺れて揺れて揺れまくっておりました。時折「バシャッ」っと物が当たる音がありますが、これは揺れで吊革が網棚に当たる音です。
 十和田市行きは連続勾配を上がっていくので唸りっぱなしになる区間もあります。また三沢行きは逆に軽快に駆け下っていくのでそれほど単調さもなく、釣掛駆動の醍醐味がそれなりに味わえた路線でした。

 2002年10月に車両の老朽化やATS設置のため旧型車は一旦は全て引退、東急から譲渡されたステンレス製冷房・VVVF車両などに置きかえられましたが、イベント用として自社発注車モハ3401と共に残り、モハ3603は東急時代の緑色塗装となり、動態で残る唯一の東急旧型車となっていました。

■モハ3603号諸元
元東急デハ3655
製造年 1942年
全長 16960mm 全幅2740mm 全高4200mm
自重 38.5t
定員 108名(座席40名)
主電動機 日立HS-267Dr (750V 94kW 1000r.p.m) x4
歯車比 3.82(65:17) ※東急時代は3.1(62:20)
台車 川車3650形
制御器 日立MMC-H-10K
制動装置 AMM-C
製造所 川崎車両

※車体寸法は「JTBキャンブックス ローカル私鉄車両20年 東日本編」(寺田裕一著)による。
主電動機,制御器,制動装置については鉄道ピクトリアル通巻636号「特集・東北地方のローカル私鉄 現有私鉄概説 十和田観光電鉄」(沢内一晃著)による。

HS-267主電動機(東急電車とバスの博物館)
「東急電車とバスの博物館」(高津)にあった,HS-267主電動機の展示物(車軸側).
車軸にかかる部分に「HS-267」の刻印がある.

撮影:TH 2002年4月4日
(画像修正済)
HS-267主電動機(東急電車とバスの博物館)
「東急電車とバスの博物館」(高津)にあった,HS-267主電動機の展示物.

東急では釣掛電動機の歯車は「はすば歯車」と呼ばれる斜めにカットされたもので,低騒音化が図られていた.
首都圏では他にも営団地下鉄等も「はすば歯車」であった.

※十鉄では平歯車の可能性もあります.

撮影:TH 2002年4月4日
(画像調整済)



モハ3811
モハ3811の三沢側.
モハ3811は東急時代に車体更新を受け運転台が撤去されていたが,譲渡の際に運転台を復元している.

撮影:TH 2000年2月12日
三沢-大曲
(フィルム撮影・画像調整済)

モハ3603 車内
モハ3801の十和田市側.
当初から切妻であり,東急からの譲渡の際に半室運転台化している.

撮影:TH 2000年2月12日
三沢-大曲
(フィルム撮影・画像調整済)

十和田観光電鉄 モハ3800形 モハ3811号
三沢-十和田市 2000年2月11日録音 約27分

録音・編集・プロデュース/TH 2012年編集作品
©TH


 1953年(昭和28年)に東急横浜製作所(→後の東急車両、現・総合車両製作所)で製造された、東急の鉄道線最後の釣掛電動車であったデハ3800形を譲り受け、両運転台化したのがモハ3800形です。
 翌年には東急初の高性能車である初代5000形が出る頃であり、製造は僅か2両で終っていますが、車体はノーシル・ノーヘッダーで窓の上部をHゴム支持とした通称「バス窓」と、過渡期の様子が伺える車体でした。

 東急時代の1976年に車体更新工事を受け、窓の2段アルミサッシ化や張り上げ屋根化,前照灯の2灯化,内装の金属化など、当時東急の釣掛車に行なわれていた内容が盛り込まれており、その際先頭に出ることが無かったデハ3802(後の十鉄モハ3811)が中間電動車化されています。

 東急最後の釣掛電動車ということもあり、台車は東急横浜製作所で設計製造された一体鋳鋼ペデスダル台車のYS-M1で、東急の鉄道線釣掛電動車としては珍しい非イコライザ台車でもあり、またブレーキ機構も後の高性能車と同様のトラックブレーキであり、こちらにも過渡期の様子が伺えます。
 同時にクハ用にYS-T1もありましたが、程無く社名が「東急車両製造」となり、東急初の高性能車5000系(初代)にはTS-301台車となったため、「YS」型番を持つ台車はこの2形式だけでした。

 一方で、主電動機は狭軌私鉄では多方面に使用されていた東洋電機製造のTDK-528系で、その元設計は第二次世界大戦前の1928年にまで遡り、大戦後の1965年まで製造されていたものです。
 東急へは1930年に当時の東京横浜電鉄モハ200形(後のデハ3150形)やモハ300形(後のデハ3400形)に採用されていますが、その後大量製造されたモハ510形(後のデハ3450形)で日立製HS-267が採用されたため、長らく東洋電機製造の釣掛式主電動機は採用されず、東急では少数派でした。

 大戦後の1947年に運輸省規格型デハ3700形で再びTDK-528系主電動機が採用されましたが、これは狭軌用110kW級規格型電動機として指定されていたことによるものです※。
 後にデハ3700形が名鉄に多数譲渡されていますが(モ3880形)、車体が規格形で車体幅も地方鉄道定規の2740mmであり、そして名鉄では同系主電動機を1500V線区の標準品として使用していたことも理由とされています。名鉄では歯車比3.21で最高速度100km/hを出す車両もあり(モ3400形等)、高速度で長距離且つ駅間距離の長い線区向けには最適であったようです。

※デハ3700形は東急時代に弱界磁接触器や主電動機タップを撤去していたため弱界磁制御が出来ず、名鉄では3M1Tでの運用となってしまい、他の名鉄車に比べ高速度域は劣ったが、当時名鉄主流の2扉クロスシート車の中において3扉ロングシート車はラッシュ対策には絶大な威力を発揮した。
朝ラッシュ時の遅延が常態化していた2扉パノラマカー7000系で運用を、元東急の3880系で置き換えたところ遅延を抑える事が出来、後の3扉車6000系導入への決断に繋がったとも言われている。
なお、名鉄でのTDK528系主電動機の歯車比は3.21であるが、瀬戸線6750系は瀬戸線の諸事情により3.71と歯車比が高めになっている。


 東急ではデハ3700形が多数譲渡・廃車されてからTDK-528系は少数派となり、残るデハ3800形も1981年に十和田観光電鉄へ譲渡されています。
 その頃には既にステンレス車7000系の譲渡も開始されていたのですが、モハ3600形等といった既存の車両との連結互換性を考慮して、十鉄側の希望によってデハ3800形の譲渡となったものです。

 デハ3800形は十鉄への譲渡の際に、変電所容量の関係で歯車比が4.33と高めに変更されたこともあり、東急時代よりも駆動音が賑やかなものとなり、しかも収録時は単行であったため、同系電動機を用いる名鉄の釣掛車と比べると、まるで路面電車か小型車のように軽快でかん高い音を出して走る様子が録音されています。

 また、譲渡の際には両運転台化もされていますが、モハ3811の三沢側は東急時代に運転台を撤去していたため、これをデハ3450形等からの廃車発生品を利用して全室仕様で復元。また、モハ3809(←デハ3801)とモハ3811十和田市側は半室運転台化していますが、こちらは切妻のままとなっており、座席も端まで設けられていました。
 停車時に機械音が目立ちますが、これは譲渡の際に冬期対策として座席下に取り付けられたバス用のFF式石油暖房器のもので、各車座席下に2台取り付けられ、燃料タンクは床下中央部に1個設け各暖房器へ銅パイプで配管されています。

 十鉄ではモハ3600形と共に長く主力となっていましたが、その間に経営環境は厳しくなり、他の地方私鉄でもカルダン駆動どころかステンレス車の譲渡も見られるようになってからも長く使われ、ようやく2002年に元東急の7200系や7700系に置き換えられています。

■モハ3811号諸元 ※
元東急デハ3802
製造年 1953年
全長 17840mm 全幅2740mm 全高4200mm
自重 39.3t
定員 127名(座席51名)
主電動機 東洋電機製造TDK-528/9HM (750V 110kW) x4
歯車比 4.33(65:15) ※東急時代は3.44(62:18)
台車 東急横浜製作所 YS-M1
制御器 日立MMC-H-10G
制動装置 AMM-R
暖房器 FF式石油暖房器(2台)
製造所 東急横浜製作所

※車体寸法は「JTBキャンブックス ローカル私鉄車両20年 東日本編」(寺田裕一著)による。
主電動機,制御器,制動装置については鉄道ピクトリアル通巻636号「特集・東北地方のローカル私鉄 現有私鉄概説 十和田観光電鉄」(沢内一晃著)による。ただし、RMライブラリ(岸由一朗著)によれば、主電動機はTDK-528/9H(110kW)とある。
FF式石油暖房器搭載の記述は、鉄道ピクトリアル通巻403号「全国を走り回る元東急の電車」による。



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